中国から寄せられた救援金に対する要望(1955年9月)

中国から寄せられた救援金に対する要望
日本国民救援会提供
(その一)甲奴郡原爆被害者の会(広島)井出口茂美

前略 郡部はやはり広島市とは事情の異る点がありますので郡部としての希望をまず記させていただき、次に総括的な考えを申しあげてみたいと存じます。
郡部被害者はほとんどが農家でございます。その実態は、作業のほとんどを人手(雇傭)にたよらなければならないので、それらの費用が過重となり収入については一般農家並の常識があてはまらない有様です。
夏は私どもの身体は最も不調の季節でございますがとくに郡部農家の被害者は6月の農繁期の過労がたたって夏季の身体不調を訴えるものが多い。したがって農繁期の労働を軽減することが急務と思います。
農繁期中に最も過労となる仕事は牛馬を使って耕記する作業であると思われます。
したがって
(1)耕運機(動力)が必要であります。価格は20万円から35万円程度であります。
(2)バタンコ(自動三輪車)1台
これは、郡内を耕運機を運搬したり、農作物の運搬その他に利用する。
非農家に対する援助はこの利用によって多少の利益を求め、援助資金が出来るのではないかと思います。
動力耕運機と自動三輪車の利用は、労働を10分の1位に減じ、おくれ勝ちな作業も適期に植付も出来ることとなり、従って増産にもなると考えられます。
郡部として一番に欲しているものは、何といってもこれでございます。その他、種々希望もありますが、全般的に共通の必要を感じ、直接影響力の大きなものは右の通りです。
(3)会として、又個人的な立場として不便を感じ、以前から希望しているものに単車(オートバイ)があります。郡部は交通も不便であり、被害者宅が広範に散財していますので、連絡、見舞、案内、実態調査、病状急変等の場合、実に不便を感じております。
生存者が主体となって会の運営をやっておりますので誰としても遠路、自転車で連絡して歩くのは困なんで、とくに夏季は日中を避けたりしますので運営もなかなか困難です。
広島との連絡も交通費等の関係で十分出来ませんが、オートバイが1台あれば緊急な連絡もでき、間接的に被害者の向上にも益するものと思います。
以上が広島市と異る郡部としての共通の希望であります。
個人に分配することは焼石に水の実状であり、ほとんど益するところがないのではないかと思います。半恒久的な処置としてながくこの浄財の恩恵に浴させていただきたいと思います。
そして、その処置は300円や500円一時的にいただくよりは数倍も価値があります。例えば、耕運機の例をとりましても1反たがやすのに、人を雇えば1日かかり、1500円位の費用がいりますが、自動耕運機でやれば、1時間半ぐらいですから、1年春秋2回だけでも数倍の恩恵があるわけです。これは、一例ですが他の恒久的な処置でも同様のことがいいうるのではないかと思いますので、ぜひ個人的分配を排しての浄財を生かして使うようにしていただきたいと存じます。少なくとも郡の会員はすべてそれを望んでおります。
温品さん(広島原爆被害者の会事務局長)がおはなしくださったように「原爆福祉会館」建立の件、私も日頃賛成しております。実はこれは私の平素よりの定説でもあり、会にも提案し、温品さんも賛成をいただいた次第です。これによって、心のよりどころが出来ます。そして郡部からは「無料宿泊所」の併設によって原対協の併設によって原対協の合同診察会にも気やすく出かけていくことが出来ます。いろんな希望は次にまわして、まずこの建設こそ第一にあげねばならぬ問題ではないかと思います。
但しあくまでこういう施設は被害者以外の人が直接運営にあたることはさけねばなりません。被害者の気持は被害者同士でなければうちとけませんし、被害者のよりよき「いこいの場所」は気易く利用させるために、被害者のみによって利用させるべきでありましょう。
原対協の受付が被害者間に割合に不人気なのもかかる点に原因しているのではないかと思われます。
原爆福祉会館に浴場・宿泊所・相談所・栄養品廉売所等を設ければ、直接利用する者の恩恵はもちろんのこと、利用できない困きゅう者に対しても300円や500円程度の援助ならいつでも出来る状態が出来ると考えます。私どもは地域的・特殊事情によるあらゆる欲求を抑えてまず第一に会館建設に全幅に賛意を表します。そして我々のみのための会館が出来ることが、何か大いなる力を与えてくれるような気がいたしますし皆様の救援のご活動と相まって、ながくはないかもしれぬ余生を、希望と安心と楽しみにすごせるような気がいたします。
一人の叫びは打消されてもたくさんの声が集って世論となれば、大きな反きょうがありますと同様に小さく分割された金の力は、一時的にあらわれて立ちぎえになるように思います。永く被害者の役に立ちますように、有効に集中されるようぜひお伝えねがいいたしたいと存じます。
なお、甲奴郡では生存者・遺族もれなく当会員となっております。

(その二)原爆被災者在京人会(東京)

本会では日本準備会の要請により、救援資金の使途に対する被爆者の意見をまとめるため次の如き懇談会を開きました。

群馬県  8月20日 参加者 6名
神奈川県  8月27日 8名
世田谷区  8月30日 4名
港、目黒区    9月 2日 9名
渋谷区・千代田区 9月 3日 8名
中野区・杉並区  9月 4日 8名
東京都の内、他の地域は九月中旬より順次開く予定です。
この結果次の点に就いて意見が一致しました。
1 医療費の補助
現在広島長崎両県市に居住する被爆者と全国に散在する約10万の被爆者(助け合い新聞152号参照)とを概観した場合、前者より後者が経済上に於いても健康上に於いても、或る程度恵まれていることは否めません。このような点から今回の救援資金は勿論のこと、将来のあらゆる救援活動も広島長崎両県市居住の被爆者に重点がおかれなければならないのは当然と思われます。
しかし乍らそれはあくまでも概観であって、個別的に見た場合東京都及び近県に於いても要治療者は42名(8月末までに判明した分)に達しております。ところが広島長崎両県原対協では資金難から両県市以外に居住する被爆者が発病し、治療費の調達に如何に困っても、何等の援助もなされておりません。人数こそ少いがこうした全国に散在する要治療者のうち治療費に困る者にこの救援資金が使われるよう希望するものです。
2 生活費の補助
生活困窮者に対しては、生活扶助料というものが支給されていますが、その額は極めて僅少であって到底その健康を維持するだけの力はありません。特に生活困窮者の中に要治療者が多いのも普断の生活が暗く最低であるために原因するものと思われます。これに対しては本会としても協力諸団体と提携して生活扶助料の増額を関係方面に交渉し、実現させなければならぬことは勿論でありますが、それでも尚且不足する場合や、生活扶助料の支給対象とならない被爆者の治療中の生活費の補助が望まれます。
3 健康診断の施行
現在までに本会で調べた範囲では、原爆神経症患者は意外に多く、被爆者の殆どが何らかの苦痛を訴えています。ところが原爆を原因とする諸種の症状に対する医師の診断が浅いために、被爆者は自らの健康に就いて確かな判断もできず、いたずらに恐怖をいだいて生活に結婚に絶望している者、或いは症状が悪化しつつあることを知らないために保健に留意せず突如病床に伏す人も多いのです。
こうした弊害を除き、加えて専門医学者による速やかな治療方法の研究を達成する方法は、全国の被爆者の健康状態を適格に調べる統一的な血液検査以外にはありません。
幸いにしてこの要望が容れられるならば、本会は専門医学者の協力により関東各県は勿論中部以東の被爆者の検診を施行するつもりです。
4 憩の家設置
在京被爆者の親睦の便に供するは勿論、治療、精密検診のために上京する地方在住者の宿泊に利するための「憩の家」の設置は、全員の一致した希望であります。しかしこれはあくまでも将来の希望であって、現在前記の3点より優先して直ちに設置することを希望しているものではありません。