原爆医療法に基づく認定申請却下処分の取消請求事件(昭和44年(行ウ)第8号)
裁判所:広島地裁
提訴日:1969(昭和44)年3月26日
判決日:1973(昭和48)年4月19日
原告:桑原忠男
被告:国(厚生大臣)
事案の概要:原告は、広島の原爆爆心地から1.3キロで被爆、1953年ごろから下半身が不自由となり脊髄円錐上部症候群と診断された。1968年9月7日に行った認定申請に対し同年12月2日、厚生大臣の却下処分があり、これを不服として1969年2月17日異議申立を行い、この申立も同年6月棄却されたため原処分の取消を求めて提訴。
争点:原告の疾病(脊髄円錐上部症候群)が原子爆弾に起因するものであるか
判決:請求棄却
原爆医療法に基づく認定申請却下処分の取消請求控訴事件(昭和48年()第号)
裁判所:広島高裁
提訴日:1973(昭和48)年5月2日
判決日:1979(昭和54)年5月16日
原告:桑原忠男
被告:国(厚生大臣)
判決:控訴棄却
争点と判決
争点1:因果関係
原告 =現在の疾病は被爆の際受けた負傷と放射能による。
被告(国)=放射能が脊髄に傷害を及ぼすのは1500-2000ラドで、原告の推定被曝線量の100ラドでは起きない。
一審判決 =原告の疾病が原爆の傷害作用に起因するとは認め難い。
二審判決 =一審と同じ。
争点2:立証責任
原告 =放射能の影響でないと認定申請を厚生省が否定する以上、因果関係の立証責任は国にある。
被告(国)=認定すべきだ-と主張する原告側に、その認定要件を満たしているとの証明、つまり立証責任がある。
一審判決 =特に触れないが、「原告の疾病が被曝外の原因に基づく必然性が高い」と国の鑑定を重視。
二審判決 =原告側にある。その方法は、医学的に厳密に証明されなくても、被爆時の状況、病歴、現症状を通し、現在の医学水準に照らし相当程度の必然性が認められれば足りる。
争点3:原爆医療法の性格
原告 =国家補償的な性格を持つ。「疑わしきは認定」を認め、被爆者救済の枠の拡大をめざすべきだ。
被告(国)=社会保障法的性格を持つ。認定されれば一般被爆者より厚い保護を受けるのだから、厳しい区別が行われるのは当然。
一審判決 =触れず。
二審判決 =実質的に国家補償的配慮が根底にある。社会補償法と国家補償法の性格を合わせ持つ複合的立法。
1979年5月29日、原告、上告しないことを表明。
理由:「10年間の闘いの中で、いろいろな成果はあった。ただ、現行の原爆二法は、控訴審での判決に見られるように、認定制度としては機能しない。従って、今後は被爆者援護法の制定実現に向けて全力を挙げる。」
参考資料
1969.11.30 | 『被爆者医療の権利を守るたたかいのために-桑原裁判の経過と問題点』 |
1972. | 「桑原裁判」の証人尋問記録 |
1973.04 | 桑原裁判判決(全文)-昭和48年4月19日言渡 |
年表:桑原原爆訴訟 |
止