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現代史研究会(1957年)

現代史研究会(1957年)

『戦後日本の国家権力』(現代史研究会<著者代表:石井金一郎>、三一書房、1960年8月25日)

同上「はしがき」

本書は、広島に在住する社会科学者の有志の共同研究によって成ったものである。共同研究は、政治学・経済学・歴史学のそれぞれの専攻の立場から、一つの研究会で討論することによって、進められた。テーマを定めて、専攻分野の異なる研究者が共同研究を進めていくということは、困難でもあったが、有益でもあった。
われわれの研究会が発足したのは、いまから三年ほど前である。メンバーの全員が社会科学(政治・経済・歴史)を専攻している者だといっても、各人の研究対象は区々なので、普通の研究会ではなかなか討議が発展しない。それで、専攻はちがっても社会科学者として現在の日本の問題に関心をもつ点では一致しているのだから、この一致している対象を共通の場にして研究会をつくろうということで会が出発した。
その後、研究の対象を、さらに戦後の日本の従属と自立の問題にしぼり、これを中心にして、各人が一応分担をきめ、報告・討議の形式をとって研究会を進め、今日に至った。
その間には、参加者のなかで、外国留学・国内研修のため広島を離れ、研究会参加を中断した人もでた。また今年になって転勤のため広島を離れた人もある。
いまその結果を公にするわけであるが、研究会の全員が共同執筆に参加したのではない。表題のテーマで問題を分担した者だけが執筆に参加した。
本書で取り扱うテーマは、実践的な問題につながるものであるが、われわれは、これを学問的立場から共同討議していった。本書のテーマは、すでにこの数年来実践的立場から論争されている問題であるが、われわれは、論争に直接に参加するのでなく、論争の基礎となるべき事柄を、資料の問題・概念整理の問題を中心に、提起したいと思う。
本書の構成は、戦後日本の権力論と、政治過程論の二部構成をとった。
権力論においては、第一章において、戦後日本の権力問題についての通観を試みた。したがって、第一章は、本書全体の通論的性格をもっている。
政治過程については、戦後の時代を大きく三つにわけて、問題史的なとりあげをおこなっている。ただ、政治過程の部は、問題史的に扱っているので、簡単にしかふれられていないところもあり、また、三人の問題意識も異なっているので、通史としての役割は、果しえていない。第二章は占領中のアメリカの対日政策をとりあげたものであり、第二章においては、講和後(鳩山内閣まで)の政治過程を通じて、当時の日米関係を追及している。第三章は、日本独占資本の現時点における要求が岸内閣の諸政策の中に、どのように反映しているかを明らかにしたものである。
このように、第二部における三つの章は、それぞれ、視角を異にしているので、三つは章でつながっているが、個々の章は、それぞれ、独立論文として読んでいただきたい。
補論はいわば、第一部の補足的意味をもつものであり、中国の公的な発表にもとづいて、中国の日本国家にたいする権力規定を時代的に整理したものである。
本書の内容については、できるだけ共同討議によって意思統一することにつとめ、また分担執筆後も、第一次原稿にもとづいて討論し、その討論の結果書き改められたものについてさらに討議をおこない、最後原稿についても調整をするという手続きをとって意見の統一につとめたが、研究会の性質上、意見の統一は強制しなかったので、本書のすべての部分について、共同研究者が見解を一にしているわけではない。とくに、第一部第一章において取り扱われている中立の問題については、他の部分と同じように、共同執筆者の討論をへて執筆されているのであるけれども、
この問題について、他の共同執筆者に充分な理論的準備がなかったため、共同執筆者の一致した見解となっていない。
しかし、細部においては必ずしも見解の一致がないにもかかわらず、本書の全体を通じて、理論の不一致にもとづく混乱はない筈である。本書は、一つのまとまった戦後権力の研究となっていると思う。
なぜならば、我々は、戦後の日本の権力の把握において、もっとも基本的な点では意見が一致しているからである。
それではわれわれの一致致している点、言葉をかえていえば、本書を一貫して貫いている理論的立場は、どのような立場であるのか。
第一は、従属の問題を、上部構造と下部構造との相関に於いてとらえようとする点である。(中略) 第二は、戦後の日本は、占領中も含めて、一貫して、民族国家として存在していたという認識である。(中略) 以上の二点において、共同執筆者は全員の見解が一致している。したがって本書を通じて、各執筆者の間に、基本的な点では相違が無い。
われわれの共同研究は、まだ未熟であって、残された問題も多く、掘り下げの弱い部分も多々あることを痛感している。それにもかかわらずあえて本書を公にするのは、それによって読者の厳正な御批判をいただき、今後の研究の大きな助けとしたいと思うからである。
われわれは、今後も共同研究をつづけていきたいと思っている。読者諸氏が厳しい御批判をよせられることを期待してやまない。(石井金一郎)
<著者略歴抄>

中村義知
なかむら よしとも
1926年生る
1949年東京大学法学部政治学科卒業
現在広島大学助教授
山田浩
やまだ ひろし
1925年生る
九州大学法学部卒業
現在広島大学助教授
石井金一郎
いしい きんいちろう
1922年生る
京都大学法学部卒業
現在広島女子短期大学助教授
大江志乃夫
おおえ しのぶ
1928年生る
名古屋大学経済学部卒業
現在東京教育大学助教授
横山英
よこやま すぐる
1924年生る
広島文理科大学卒業
現在広島大学講師