原水爆実験停止命令申請訴訟(1958年4月)

原水爆実験停止命令申請訴訟 1958年4月

原水爆実験停止命令申請訴訟主任
弁護士ウイリン氏の来日について

 A・L・ウイリン氏は、五月九日早朝のパン・アメリカン機で突如来日した。A・L・ウイリン氏はロスアンジェルス市の在住者で、連邦裁判所の弁護士の資格をもっている。同氏は右の訴訟の考案者の一人であり、現在主任弁護士である。

一、訪日目的と滞在予定

同氏は、六日ハワイのホノルル地裁でおこなわれた「ゴールデン・ルール」号乗組員の公判に立会った。
今回の訪日の目的は、約一週間の予定で、日本で現在実際に研究に従事している原子力分野の科学者と会見して、核爆発実i験の影響に関する最近の科学資料を蒐集することであり、同時に実験による漁業と漁民への影響を調査することである。

二、日本原水協の受け入れ体制について

これらの目的を充分はたすために、同氏は訪日の直前の手紙で、日本原水協の協力を要請してきた。
日本原水協は、同氏とアメリカの平和活動家、なかんずく核政策健全化委員会との関係を考慮し、世界大会にたいする協力要請もあることなので、同氏の訪日目的にできるだけそうような協力をすることが必要である。
このため、各分野の科学者、漁業関係者、漁民、法律家との会見を調整して、これに必要な通訳兼助手を一名つけることにした。

三、財政について

右のために必要な財政支出は、通訳費約一万円、交通費など雑費約一万円で計二万円をこえない額におさまることになる。

原水爆実験停止命令申請訴訟

 本件は、1958年4月4日、アメリカにおけるコロンビア地区連邦地方裁判所に提起された。本件の詳細は次のとおりである。

1.原告

ライナス・C・ポーリング アメリカ、ノーベル化学賞受賞者、カルフォルニア工科大学化学教授)
バートランド・ラッセル イギリス、ノーベル文学賞受賞者
賀川豊彦 日本、日本原水協代表委員、キリスト教界長老
カール・ポール・リンク アメリカ、ウイスコンシン大学生化学教授
レスリー・C・ダン アメリカ、コロンビア大学動物学教授
クラレンス・E・ピケット アメリカ、アメリカ・フレンド奉仕委員会名誉執行委員
ウィリアム・ブロス・ロイド アメリカ、政治評論家、編集者
ノーマン・トーマス アメリカ、作家、アメリカ社会党長老
ステファニー・メイ アメリカ、家庭主婦
L・ジョーン・コリンズ イギリス、ロンドン聖パウロ寺院僧会議員
G・ミカエル・スコット イギリス、イギリス聖職者協会書記、国連アフリカ局名誉会長
中谷清明 日本、室戸岬船員同志会会長、船長
松下?江治 日本、室戸岬船員同志会会員、機関長
釣井高明 日本、第十一カトリ丸船主
ブロック・チショルム カナダ、世界保健機構前事務総長
D・マルチン・ニーメラー 西ドイツ、ドイツ福音教会会長、神学者
アンドレ・トロメク フランス、フランスF・O・OR会長
キャスリン・ロンズデール イギリス、ロンドン大学化学教授、王立協会会員

2.被告

ニール・H・マッケルロイ アメリカ国防長官
ルイス・L・ストローズ アメリカ原子力委員長
ウイリアード・F・リビー アメリカ原子力委員
ハロルト・S・ヴァンス アメリカ原子力委員
ジョーン・S・グレーアム アメリカ原子力委員
ジョーン・F・フローバーグ アメリカ原子力委員

 

3.提案の趣旨

放射能を発生する核兵器を、それに責任のある関係公務員が、今後爆発させることを防止する訴訟を、米・英・ソ連において提起する。この訴訟は、勿論、各国の法律が異なっているので、別々に各該当国で提起することになる。然しこれらの訴訟は同時に提起されるよう、あらゆる努力を払い、かつ若干の原告はすべてのこれらの訴訟に共通であるようにする。

米国における訴訟は、米国市民のグループ及び米国市民と共に他の国々の原告のグループから提起され、コロンビア地区の連邦地方裁判所に提起される。これは原子力委員会のメンバー、その主たる執行官等及び国防長官に対し、これらの公務員等が放射能を発生する核兵器を爆発させることを将来において差止めることを目的とするものである。

もし不利な判決があった場合は、コロンビア地区の控訴裁判所に上訴し、更に不利な判決があれば、連邦最高裁判所に上訴されるであろう。