「1995年」カテゴリーアーカイブ

NPT再検討会議(1995年)

[核不拡散条約延長に向けた動き]

条約発効後25年にあたる95年に核不拡散条約(NPT)の延長期間(無期限又は一定の期間の延長)を決定するための会議が開催される。これは、将来のNPT体制の在り方を左右する極めて重要な会議である。非同盟諸国の多くは、NPT延長期間についての考えは明確にせず、この問題と核軍縮、全面核実験禁止条約(CTBT)締結交渉の進捗状況などを関連づけて検討するとの立場をとっている。

しかし、国際的な安全保障にとって、NPT体制を安定的なものとすることにより、核兵器国の増加を防止することが不可欠である。日本は、このような認識の下に、先進各国と共にこの会議に向け無期限延長支持の立場を内外に表明してきている。94年7月のナポリ・サミットの議長声明においても、G7各国とロシアがNPTの無期限延長を支持することを明確にした。無論、NPT無期限延長は、核兵器国による核兵器の保有の恒久化を意味するものであってはならない。日本としては、核兵器の廃絶という究極目標に向けて、以下に述べるCTBT交渉の早期妥結など、すべての核兵器国に対し一層の核軍縮努力を引き続き求めていく考えである。

また、NPTは、94年末現在166か国が締約国となっているが、インド、パキスタン、イスラエル等の国が今もNPTの枠外にとどまっており、これらの国のNPT加入を求めていくことがNPT体制の強化にとって重要となっている。日本としても、93年よりインド、パキスタンとの間で核不拡散協議を開始し、NPT加入促進の努力を行っている。

[全面核実験禁止条約交渉]

94年は、93年に引き続き全面核実験禁止に向け進展が見られた。現在、ロシア(91年10月より)、フランス(92年4月より)、米国(92年10月より)が核実験モラトリアムを実施し、英も実質的に核実験を停止している。その中で、94年1月から、軍縮会議(CD)においてCTBTに関する本格的な審議が開始され、「普遍的な、かつ多国間で効果的な検証が可能なCTBT」を目指し、精力的な協議が行われた。その結果、9月に、各国の異なる意見の並記にとどまったものの、今後の交渉のたたき台となる議長条約案文が作成された。95年のNPT延長会議を控え、今後の交渉のさらなる進展が期待される。このように全面核実験禁止条約交渉が精力的に行われている今日、中国が94年に2回にわたり(6月、10月)核実験を実施したことは遺憾なことであり、日本はこれ以上核実験を行わないことを中国に対し繰り返し訴えている。

[核兵器の究極的廃絶に向けた核軍縮に関する決議]

このような国際社会の努力の中で、日本は唯一の核被爆国として、核兵器の廃絶を究極的な目標とし「現実的かつ着実な核軍縮」を促すため、第49回国連総会において「核兵器の究極的廃絶に向けた核軍縮に関する決議案」を提出し、これが採択された(注1)。

この決議は、前文において米露等の核軍縮努力及びCTBT交渉の進展を歓迎し、NPTの果たしてきた役割を評価し、主文において(あ)NPT未締約国に対し、同条約への早期加入を要請し、(い)核兵器国が核兵器の究極的廃棄を目標とする一層の核軍縮努力を行うことを呼びかけるとともに、すべての国が、大量破壊兵器の軍縮と不拡散の分野における約束を完全に履行することを呼び掛けたものである。この決議が採択されたことにより、今後の核軍縮の基本的方向性が明確に示されたことは大きな意義を有する。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/1995_1/h07-2-1.htm#b11

 

核不拡散条約(NPT)は、70年の発効以来、今日の世界の平和と安全の根幹の一つをなす国際的核不拡散体制の柱としての役割を果たしてきた。発効から25年目にあたる95年、4月から5月にかけてニュー・ヨークで、NPTの運用状況を再検討するとともにこの条約の延長期間(無期限又は一定の期間)を決定するためのNPT再検討・延長会議が開催された。この会議の結果、NPTの無期限延長が無投票で決定され、同時に、「NPT再検討プロセスの強化」及び「核不拡散と核軍縮のための原則と目標」の二つの決定が採択された。特に後者は、「究極的核廃絶を目標とする核兵器国の核軍縮努力」、「全面核実験禁止条約(CTBT)交渉の96年中の妥結及びCTBT発効までの核実験の最大限の抑制」等をうたっており、将来の核軍縮・核不拡散の道筋を示すものとして高く評価される。

日本は、世界の平和と安全にとって、NPT体制を安定的なものとし、核兵器保有国の増加を防止することが不可欠であるとの立場から、NPT無期限延長を支持したが、同時に、無期限延長が、核兵器国による核兵器保有の恒久化を意味するものであってはならず、核兵器のない世界を目指して、核兵器国がNPT第6条の核軍縮義務を誠実に履行することを強く訴えてきた。NPT再検討・延長会議の結果は、まさにこのような日本の主張と国際社会の認識が合致したことを意味する。

NPTは、95年12月現在締約国が182か国に達し、その普遍性は益々高まっているが、インド、パキスタン、イスラエル、ブラジル等の国は今も未締結のままである。日本は、これらの国に対しNPT早期加入を粘り強く働きかけている。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/96/seisho_1.html#6

 

広島市平和式典(1995年)

平成7年8月6日広島市原爆死没者慰霊式・平和祈念式

原爆死没者慰霊碑の奉安箱の原爆死没者名簿の概要

名簿に記帳された氏名
名簿登録者総数
名簿総数

参列者の概要

被爆者や遺族など 約万人
村山富市 内閣総理大臣
土井たか子 衆議院議長
斉藤十朗 参議院議長
草場良八 最高裁判所長官
三権の長全員が参列(初)
遺族代表 都道府県
各国大使や代表

広島市長平和宣言(下記参照)

http://www.city.hiroshima.lg.jp/

内閣総理大臣挨拶

内閣総理大臣

出典

 

 

スミソニアン特別展計画中止についての広島市長コメント

スミソニアン協会特別展計画中止についての広島市長コメント(1995年1月31日)
[広島市資料]
スミソニアン航空宇宙博物館が当初の意図に反して、特別展の規模を縮小し≪米国戦勝50年≫一色に修正したことは、極めて遺憾である。
世界がなお、核の脅威にさらされている今日、戦勝国の論理で原爆を投下した工ノラ・ゲイ号を展示する時代ではない。
広島・長崎両市には、今回の被爆資料貸し出しによって米国を責め、非難する意図はまったくなかった。ただ、核兵器がもたらした残虐な実態を米国の人々に知ってもらうことによって、核兵器のない世界を築く世論を高めたい、と願っていただけに、残念さは一層強い。
広島市としては、今回のスミソニアン側の決定とは関係なく、≪被爆50年≫にあたって米国で討論の場を設けるなど、独自な催しを展開することによって、米国民に核兵器廃絶にかけるヒロシマの思いを訴えかけていくつもりである。
平成7年1月31日
広島市長 平岡 敬

原爆死没者慰霊等施設(原爆死没者追悼平和祈念館)基本計画報告書(1995年2月)

原爆死没者慰霊等施設(原爆死没者追悼平和祈念館)基本計画報告書

1995年2月

 原爆死没者慰霊等施設基本計画検討会

第1章 施設のもつべき機能

一 施設の性格及び機能の役割分担

本施設の設置そのものが、国として原爆死没者を慰霊し、永遠の平和を祈念する事業であるとともに、国立の施設でないと収集できない資料や国内外に散在する資料借報を総合的に把握・活用し、世界各地域へ発信するなど多岐にわたる事業を展開する施設として位置づけられている。したがって、慰霊,平和祈念施設、図書館的施設、情報提供施設、国際協力・交流施設、調査,研究的施設など多様な性格をもつ施設である。

また、類似施設や隣接施設への機能の役割分担を積極的に行い、重複を避けるとともに、それらの施設をネットワークで結ぶ中核的施設としての役割を果たすべきである。

なお、本施設は、多様な性格を帯びる施設であることから、立地条件や財政面を考慮して、機能の兼用が図れるような、効率の良い空間づくりをする必要があるとともに、設置場所については、施設の性格にふさわしい場所を検討する必要がある。

二 広島・長崎の施設機能分化について

広島市、長崎市に全く同じ機能を有した施設をつくることは、効率的でなく、財政面においても不経済である。

また、原爆死没者慰霊等施設基本構想懇談会で提言している、

①慰霊の場とする

②資料・情報の継承の拠点とする

③国際的な貢献を行う拠点とする

この三つの基本理念の機能について、各々の施設にそれぞれの機能を分担させることは、家族・遺族並びに被爆者の思いや、既存施設との連携等に問題があり、困難である。

したがって、三つの機能のうち慰霊・平和祈念については両施設とも主たる機能の一つとし、残る二つの機能については、それぞれ、そのどちらかを主たる機能の一つとしつつ、両施設間においては、互いの主たる機能を補完しあうものとするのが望ましい。

例えば、広島の施設においては、利用のためのホストコンピューターの設置など資料情報の収集の機能を充実し、長崎の施設においては、国際協力及び交流の機能を充実することなどが考えられる。

その上で、それぞれの施設がそれぞれの地域性を考慮した運営を行っていくことが望ましい。

三 施設機能の考え方

類似施設や機能分化を考慮した施設機能を考えるに当たって、ロケーションを踏まえ次のことに留意する必要がある。

ア 類似施設の機能と重複を避ける。

イ 本施設においては多数かつ幅広い来場者があることを見込む。

(1)本施設の独自性・特徴を打ち出す機能の考え方

既存の類似施設が集中するなかで、本施設の特徴を打ち出すためには、本施設自体が多様な性格を合わせ持つということのみならず、展示や情報提供においても、特徴ある機能を持つことが必要である。

ア データベースシステムによる資料情報の集積、提供

イ 被爆者のライフヒストリーによる被爆体験の記録・保存

(2)利用者の目的に応じた空間区分の明確化

被爆者やその家族・遺族等の直接の関係者、原爆関係の研究を行う研究者、教育の一環として来場する修学旅行生、一般利用者など多様な来場者が予想される。

しかしながら、その来場者も利用者層によって、利用時間や利用目的も違うため、異なる利用者層が同一空間で検索などを行うと、混雑や混乱が予想されるので、あらかじめ空間区分が必要である。特に個人的な傾向が強いデータベース検索は、個人の利用者への配慮が大切である。

また、施設のスムーズな運営という視点から見て、調査・研究のための利用者と一般の利用者の動線とが混在しないことが必要となる。

(3)空間を有効に利用するための兼用化

本施設では、空間を有効に利用するために、展示や情報提供以外の集会スペースにおいて多目的な機能を持たせる必要がある。例えば、会議室や研修室などは兼用する。

第二章 施設の構成

一 施設構成の考え方

(1)施設のシンボル性

本施設は、原爆死没者への弔意を表す事業として建設されるという性格に鑑み、原爆死没者に対する弔意としてのシンボル性を有するものとする。また本施設は、平和祈念事業としても位置付けられていることから、平和を希求する心がより積極的に内外に伝わるものでなければならない。

(2)周辺環境との調和

周辺環境と建物との調和に留意し、景観にとけ込み、違和感を与えないように配慮することが必要である。

(3)あらゆる人々が利用できる建物

原爆死没者慰霊等施設は、原爆被爆者やその家族・遺族、研究者等の限られた者の利用ばかりでなく、多くの人々が自由に施設を訪れ、事業に参加できるとともに、身体障害者・高齢者などにも利用しやすい構造設備とすることが必要である。

(4)時代にあった現代的な構造設備

高度情報化社会に対応できる構造設備としていくため、情報提供等の事業に必要な情報拠点機能の充実はもとより、施設の管理面においてもできるだけインテリジェント化を図るとともに、省エネルギー化にも留意する必要がある。

二 施設空間の考え方

施設の空間構成は次のようなものになると考えられる。(図表1)

(1)導入空間

建築的な空間として必要とされる。ここを通り、本施設のさまざまな空間へと向かう。ここは、ロビー的な機能も合わせ持つ空間とする。

(2)慰霊・平和祈念空間

慰霊の場として、来場者が襟を正すような雰囲気を持ち、原爆死没者への慰霊と平和を祈念する空間とする。

(3)資料・情報空間

原爆に関する様々な資料を収集保存、利用する空間とする。

(4)国際協力・交流空間

国内外からの各種問い合わせ等に対応するとともに、会議及び研修等を通じて、交流することができる空間とする。

三 施設構成

(1)導入空間

○本施設全体におけるエントランス的役割を持ち、来場者がまず最初に訪れる空間であるので、ロビーとしての機能とともに、施設のイメージが感じられるような工夫が必要である。

また、施設全体のインフォメーションやサービス機能の確保と速やかに移動できる動線計画が必要となる。

○本施設は、多くの人々が気軽に施設を訪れ、参加できるとともに、身体障害者・高齢者などにも利用しやすく、入りやすい落ち着いた雰囲気を持つ空間とする。

○具体的施設構成

導入空間については、次のような構成が考えられる。

ア 受付・案内

訪れた人々のために受付を設置し、高齢者や身体障害者、外国人への対応を考慮した適切な案内を行う。その他、施設を訪れた来場者を速やかに目的の場に導くきめ細かなインフォメーションを行う。

イ その他(サービス機能)

・有料とする場合、チケットの発券に伴うチケットブースの設置や、団体利用者への対応の窓口を設ける。

・公衆電話、コインロッカー、ベンチ、グリーン(植栽)などを設置する。

・高齢者や身体障害者への配慮も行う。

(2)慰霊・平和祈念空間

○原爆死没者への慰霊と平和を祈念するために、来場者が襟を正すような厳かな雰囲気の空間とする。なお、休館日であっても訪れた人々のために、慰霊・追悼できるような配慮をすることが望ましい。

○慰霊と平和を祈念する場として、圧迫感のないように空間の広がりなどを大切にしつつ厳かな雰囲気を持つ空間とする。

また、内装の質感や色彩計画、照明計画は、場にふさわしい落ち着いたものとする。さらに、心が安まるように、水や外光、音響などを効果的に取り入れることも考えられる。

○具体的施設構成

慰霊空間については、

A案:建物の外観、構造等で慰霊・平和祈念の気持ちを表す。

B案:モニュメント等で慰霊・平和祈念の気持ちを表す。

・モニュメントの設置

・原爆死没者の象徴的な遺品

・生花を絶やさない祭壇等

C案:原爆死没者一人一人への慰霊の意味を考慮し、個人資料を展示する。

・原爆死没者の氏名やライフヒストリー的な内容のもの

・グラフィックモニュメントの設置等

等が考えられるが、それらを組み合わせたもので、慰霊・平和祈念の気持を表すことが望ましい。

(3)資料・情報空間

○本施設が調査収集した資料や各種データを保管、提供するとともに、被爆の実態を後世に伝える機能を持たせる。

ア 原爆についての知識の少ない人々のために、広島・長崎の被爆についての概略情報をガイダンス的に提供する機能(類似施設で提供される資料は除く。)と、必要に応じて、原爆に係わる各種資料を探すための詳細情報を検索できる機能が必要である。

なお、利用者のニーズに応じて的確に検索の案内を行うレファレンスサービスが必要である。

イ 国内類似施設や海外とのネットワークにより、特報の交換を行うことが望ましい。

ウ ライフヒストリーの対象者となる人々のプライバシー保護のために、公開データと非公開データを区分できるシステムが必要である。

工 収集された資料を活用・研究して、新たな情報の創造を行う機能が必要である。例えば、利用者の要請に見合った資料の提供など。

○短時間で回転する修学旅行生などの団体利用と、比較的長時間にわたる調査研究用の検索のスペースは、動線上交錯しないことが望ましい。

○具体的施設構成

資料・情報空間については、次のような構成が考えられる。

ア 団体対応コーナー

修学旅行生等の団体利用者に対して、原爆に関すること及び原爆死没者への慰霊の意義等について基本的なガイダンスを行う。

イ 情報検索室

被爆者やその家族・遺族のほか、研究者、学生、その他幅広い層の利用者に対して、原爆に関する様々な情報(被爆者のライフヒストリーを含む)を提供する。

ウ ビデオライブラリー室

記録映画、被爆の映画、テレビ番組の録画、類似施設が保有している映像等、既春の映像素材を収集し、ライブラリー化し、一般に公開する。

エ データベース室

原爆に関する資料情報検索システムを構築し、本施設が収集、保存、展示する資料はもとより、類似施設、図書館、研究機関、固体等に保管されている原爆に関する膨大な資料情報をコンピューターの活用により、求められた情報を提供する。

オ 情報収集処理室

開館に伴って作られるデータベースに、その後も継続的に遺族などから収集された資料等のデータを入力する。

収集された資料を活用して、医学的な研究のみならず、人文科学、社会科学等を含めた学際的なアプローチにより、原爆被害の実情を明らかにし、新たな情報のプロデュースを行う。

カ 図書閲覧室

原子爆弾に関する図書、被爆状況に関する図書及び被爆者の日記や手記等を収蔵し、来館者の利用に供する。

キ その他

収蔵に当たっては開架式書庫を原則とするが、プライバシーの保護について十分留意する必要がある。また、利用頻度のそれほど高くない書籍等を収蔵するためにも蘭架式書庫及び保管庫が必要である。

(4)国際協力・交流空間

○世界唯一の原爆被爆国である日本の貴重な資料を基に、国際協力と交流の場として、この空間が位置づけられる。

具体的には、会議や研修ができるとともに、研究者や専門家等の研究の場としての活用、国内外の関係機関との資料交換や情報の受発信を行う。

ア 派遣や受入れについて、施設や制度を紹介・調整する機能が必要である。

イ 関係団体との連携を図りながら活動を行うことが必要である

○国内外の類似施設、国際機関、図書館、大学、各種団体などとの資料の交換、人的交流などのネットワーク作りを行うことができる空間が必要である。

また、一つの用途だけに限定しない多目的性を持った空間が望ましい。

○具体的施設構成

国際協力・交流空間については、次のような構成が考えられる

ア 会議、研修室

原爆に関連する各種研修会、平和を祈念する講演、会議、研修等に多目的に利用できる場を提供する。

イ 研究室

国内外から訪れる研究者などは、滞在しながら研究することも考えられるので、研究活動用の研究室を設置することが望ましい。

ウ その他(事務局)

国内外からの人材の派遣、受け入れ等の問い合わせに対して、さまざまなコーディネートを行うとともに、関係団体との連携を図りながら、資料の交換、人的交流などのネットワーク作りを行う。

本施設の情報誌を定期的に編集発行し、広く国内外へ情報を発信するとともに、情報の受信も行う。

四 動線の考え方

さまざまな利用者が訪れる本施設の運営を円滑に行うために、利用者の特性に応じた動線を設定することが大切であると思われる。また、利用者と管理用の動線についても交錯しないような配慮が必要である。

(1)管理動線と利用者動線を設定する

一般的な管理動線の考え方としては、施設の管理にかかわる人や物の流れと、施設利用者の出入口とは別に設置し、管理動線と利用者動線が分離されることが望ましいとされている。これは利用者への配慮と、施設機能の維持、スムーズな運営のためであり、本施設においても、この考え方を踏まえることが大切である。

現在、建築予定地や建築概要が決まっていないことから、動線計画だけ概念的に提示するにとどめておくこととする。(図表2)

(2)利用者動線での団体と個人を分離する

本施設を訪れる利用者は、さまざまな行動をとることが予想されるが、スムーズな移動ができるような動線計画が重要になる。具体的には、二つの大きな動線を設定することが適切であると考えられる。

その一つは、修学旅行生等を対象とした団体動線であり、もう一つは、ゆっくり時間をかけて施設を利用する人々のための一般動線である。

団体動線については、短時間で大量の人声を効率よく移動させることが重要であり、一般動線については、被爆者や原爆死没者の関係者、研修に訪れた者等が落ち着いて慰霊できることが重要である。

なお、二つの動線については、交錯しないで目的の場にたどり着けることが望ましい。

五 施設の構成

具体的な施設構成に当たっては、来場者の予測が必要となるため、広島・長崎の類似施設の来場者(年間約110、140万人)の半分程度(年間約60万人)が訪れるとしてシミュレーションした。

その結果、年間利用者は60万人であり、1日当たりの利用者は2,000人、1時間当たり250人が訪れる計算になる。これを基礎データとして、施設の構成、フロアー占有面積については、次のような案[表・略]が一例として考えられるが、具体的には立地条件等により判断されるものである。また、両施設の機能分担についても考慮する必要がある。

第三章 管理運営

一 管理運営と組織

(1)管理運営主体の形態

本施設の運営の主体は、持続的に活性化できる組織を構成するという視点から考えるべきであり、そのためには、人・事業・財政面において柔軟で開かれている民間の活力を有効に使っていくことが必要である。

従って、施設の設置主体は国であるが、運営については、広島、長崎のそれぞれにおいて、原爆関係の事業を行っている公益法人に委託することが望ましい。

なお、その運営の適正化を図るため、学識経験者等からなる何らかの諮問機関を国及び受託公益法人にそれぞれ置くことが必要である。

受託公益法人においては、この事業に係る収入及び支出を明確にするため、特別会計を設けることが、適正な運営を図るために必要である。

(2)組織構成

組織構成は、施設の事業内容及び事業分掌等から決定することとし、人員規模は、施設の管理、事業について最小限の常勤職員を配置し、施設の案内受付、データ入力等については非常勤職員を配置することが望ましい。

また、警備、清掃、保守点検等については、外部委託とする。

以上の点を踏まえると、例えば、図表3のような組織が考えられる。

(3)施設の名称

施設の名称については、平成6年12月に成立した「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」第41条に規定している「平和を祈念するための事業」に基づいて設置される施設であることを明らかにするために、「原爆死没者追悼平和祈念館」とすることが最もふさわしいと考えられる。

なお、施設の国際性から英語による表現も考慮に入れるべきである。

また、広く国民になじみやすい施設とするために、通称を決めることも一つの考え方である。