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核兵器禁止・平和建設国民大会 被爆者救援に関する決議 1961年8月15日

核兵器禁止・平和建設国民大会 被爆者救援に関する決議
1961年8月15日、於・東京都体育館

被爆者救援に関する決議

過去における人類の歴史は戦争の歴史であります。原爆の洗礼をうけた広島,長崎の街に十六年前の恐ろしかった,悲しいあの日が今年もめぐってきました。

最近の国際緊張は,ひしひしと戦争の危機を身近に感じさせ,再び暗い重圧感を,もたらしています。

戦争は人類の悲劇であります。夫を失ない,そして父を,兄弟を失ない,さらにケロイドのあとを残し,生命の不安におののきながら生きながらえる被爆者の孤独感を思う時「原爆許すまじ」とだれもが怒りをこめて叫ばざるをえません。

夏草の下にねむる数かぎりないみ魂よ,安らかなれと,静かな祈りをこめて,平和の鐘が鳴り響く時,広島,長崎も正常なよそおいに立ちかえったかに覚えますが,その裏には,今なお病苦と,生活苦に,夢も失った被爆者たちが,十七万人余りもいるといわれます。

こうした原爆の爪跡を一体誰が真剣に考えているのでしょうか。消費生活がやや安定し所得倍増ムードに甘えている今の社会情勢は,すでに被爆者のなやみも,また,存在をも忘れがちのようです。

被爆者の方たちは,日本の犠牲者です。国のために,犠牲に甘んじなくてならなかった人達です。これを日本中の人たちはいつまでも忘れてはなりません。

今の政府もまことに冷淡であります。その対策は申しわけにすぎず,いつまでも見はなしておくような態度は許せません。

私たちは本日の記念すべき平和大会の意志として被爆者救援を誓いあいたいと思います。

まず政府に対しては,援護法の成立と十分な対策費の計上に努力するよう要請し,更にヒューマニズムに立脚した相互に助け合い精神を発揮して物心面面の救援に乗り出すことをここに決議し,被爆者の方々の健在を祈り,平和な世界の実現に努力致しましょう。

(出典:「民社新聞」昭和36年8月18日)

ヒロシマ・原爆と被爆者 1963年8月

『ヒロシマ・原爆と被爆者』(日本原水爆被害者団体協議会・広島県原爆被害者団体協議会、1963年8月)


目次

被爆者の訴え

被爆者は訴えねばならぬ(和田ヨシ子)、いのちあるかぎり(西本良子)

原爆 その実態と影響

1.原子爆弾の三つの効果

2.原爆が人間にもたらした災害

(a)熱線による障害、(b)爆風による障害、(c)放射線による障害

被爆者 その苦しみと要求

1.被爆後18年間の被爆者の苦しみ

2.被爆者の苦しみと要求

被爆者の救援


被爆者 その苦しみと要求[抄]

「原水爆禁止運動を再統一し大きく発展させるという重要な課題を持つ今年の世界大会が、この被爆地広島で開かれるのも、被爆者の体験と苦しみを深く正しく理解し、それを基礎にしてはじめて運動の再統一と飛躍的な発展が可能になるからであろう。

この世界大会の一環として、被爆者を囲む懇談会が開かれ、被爆者自身のなまなましい体験と苦しみが訴えられるが、それを補い被爆者の現状をヨリ深く正しく理解して頂くために、被爆者の苦しみと要求をまとめて、御参考に供したいと思う。

2.被爆者の苦しみと要求

日本原水爆被害者団体協議会は、現在「医療法から援護法へ」という要求を掲げて運動している。現行の医療法は、二次にわたる改正によっても、まだ不完全なものである。現行医療法では、①「特別被爆者」((イ)三キロ以内の直接被爆者、(ロ)胎児、(ハ)その他一定の異常が認定された被爆者)には、「生活保護法を除く他の一切の法令による医療に関する給付の諸制度(健康保険など)」を前提として、本人負担が残らないよう一般疾病医療費を支給すること、②低所得層に限定して「直接医療に必要な経費」として「医療手当」を支給すること、③精密検診に限定して「検診交通費」を支給すること、などが規定されている。これに対して、被団協は、①すべての被爆者の治療費の支給、②治療制限の撤廃・治療範囲の拡大、③医療手当の増額と制限の撤廃、④人間ドックのような充分な建康診断、⑤すべての検診に交通費を支給、⑥被爆者の範囲拡大、⑦原爆症の根治療法発見のための研究機関の強化などを要求している。これらの要求は、被爆者の医療保障を完全なものにするために必要な正当な要求である。

しかし、被爆者の現実の苦しみは、医療保障だけでは解決できない。被爆者がうけている放射線障害は、被爆者の体内の細胞組織に残っている障害であるため、被爆者はあらゆる病気にかかりやすく無理をして働くことができない「半病人」として社会生活しているのである。そのため、病気と貧困の悪循環--身体が弱いため一人前に働けず貧しくなり、貧しいために診療をうけたり休養をとることができず病気を悪化させる、という悪循環--に陥りがちである。したがって、被爆者の健康を守り、原爆症の完全な治療をするためには、どうしても医療保障と結びついた生活保障が必要なのである。そのためには、医療法から医療保障と生活保障を含む援護法へ切りかえなければならない。

生活保障の具体的要求として、被団協は、(1)認定をうけた死没者への弔慰金の支給、(2)発病した人の生活保障、(3)ボーダーライン層への生活援護、(4)国鉄運賃の減免、(5)就職援助、(6)生活医療相談所設置、(7)原爆被爆老人ホームの設置などを掲げている。これらの要求は、完全な医療保障の要求とともに、被爆者が憲法第二五条で国民の権利として規定されている「健康で文化的な最低限度の生活」を営むためにどうしても必要なものである。

さらに、援護法の内容には、国家補償の要求として、(1)身体障害者に手当の支給、(2)死没者への弔慰金、遺族の援護、が掲げられている。国家補償とは、国家としての責任を認めて国民の損害をつぐなうため特別の措置を講ずることで、このような目的をもつ法律が、「援護法」と一般によばれている。

原爆被爆者援護法を成立させるためには、基本的に政府、国会に原爆被害の国家責任を認めさせることが必要である。このことは、第二次大戦における日本国の責任を充分反省し、アメリカの核戦略体制に参加協力するのではなく、軍備全廃による世界平和の実現のために積極的な態度をとり、国内では軍国主義的政策を転換し完全な社会保障の実現のために積極的な態度をとるよう要求することを通じてはじめて可能であろう。

さらに、被爆者の完全な救援法だけに期待することはできない。被爆者とそれをとりまく国民との間に、もっと深い相互理解ともっと強い相互協力とが必要である。結婚や就職の差別、現行被爆者医療法によってさえ生れている被爆者を特権者とみる傾向、などの問題は、被爆者と一般国民との理解と協力なしに解決せきないであろう。被爆者と一般国民とが理解と協力を深め、被爆者救援運動と原水爆禁止運動とを統一的に発展させないかぎり援護法を成立させることもできないであろう。

「原爆放射能医学研究所設置」などに関する陳情運動日誌

「原爆放射能医学研究所設置」・「原爆医療法中二粁の制限拡大」・「戦傷病者戦没者遺族等援護法中学徒・女子挺身隊・義勇隊等の時限法改正」に関する陳情運動日誌

広島・長崎原爆被爆者医療法改正対策委員会 1962年2月

はしがき

 昭和三十四年九月原爆医療法の一部改正を目的とする政治運動展開を企図して構成された本対策委員会は、同年、画期的な同法改正に成功、翌三十五年原爆放射能医学研究所設置運動に乗り出し、僅々一カ月の短期間において同所究所創設にかかる予算獲得・法律改正を奇蹟的に果し、引続き三十六年には、特別被爆者の二粁制限撤廃に立ち上り、遂にその制限を三粁に拡大する予算獲得に成功し、ここに原爆問題の当面する重要案件を殆んど処理し終えたものである。

 本委員会が斯る華々しい成果を収め得たのは、自民党幹部を始めとする関係各位の強力は御支援・御協力によるところであるが、特に運動の推進役を担当して貰った自民党広島県支部連合会被爆者対策委員長・広島市被爆者対策委員長任都栗司君の献身的努力に負うところ極めて多く、ここに改めて深甚なる敬意と謝意を表明するものである。

 本委員会は、運動の当初より事務局をして運動の詳細を記録せしめていたものであるが、原爆問題の重要案件を殆んど処理完了した今日、ここにこれが運動日誌を公にし、格別の御協力を賜わった関係各位に対し心からの謝意を表すとともに、将来の参考とすることとした。

 各位の御高覧を御願いして止まない。

昭和三十七年二月

広島長崎原爆被爆者医療法改正対策委員会
常任委員 参議院議員 岩沢 忠恭

 

目次(其の一)

昭和35年
9月22日
~12月10日
1.原爆医療法中2粁の制限拡大問題に関し、主として厚生省当局の意向を打診
12月12日
~12月13日
1.原爆被害者医学総合研究機関の設置に関し関係各方面と基礎的打合わせ(特に所管省問題)をなす。
2.本対策委員会、昭和35年運動目標を原爆被害者医学総合研究機関の設置に置くことに決定。
12月14日
~12月21日
1.広島市及び長崎市の原爆問題関係機関と打合せの結果、原爆医学研究機関の設置について地元の意識統一成る。
2.原爆医学研究機関設置にかかる陳情書作成
12月23日
~12月27日
1.原爆医学研究機関設置に関し、関係各方面、特に自民党政調会文教部会に対し、陳情書提出の上、強力に陳情。
2.文部省当局に対し、原爆医学研究機関設置に関し、陳情運動展開中の旨連絡、表面化した場合引受け方陳情
12月27日 1.原爆医学研究機関設置の案件、広島大学に附置することとし、自民党政調会文教部会において満場一致をもって採択に決定
12月28日
~昭和36年
1月5日
広島大学当局に対し、原爆医学綜合研究機関設置に要する必要予算を至急追加要求方要請
2.広島大学との協同陳情書(要求予算を含む)作成
1月6日
~1月7日
1.広島大学より広島原爆放射能医学研究所にかかる追加要求予算書を文部省当局に提出
2.広島大学より文部省に対し、提出の追加要求予算内容一部訂正の上、必要陳情書作成
1月6日
~1月7日
1.自民党役員、同政調会役員、文教部会役員に対し、訂正陳情書を提示の上原爆放射能医学研究所問題の採択方について強力に陳情
2.自民党政調会文教部会は、政調役員会に対し原爆放射能医学研究所予算四億六百万円を要求することに決定
1月7日
~1月9日
1.自民党政調役員会において原爆放射能医学研究所関係予算満場一致をもって採択に決定
1月9日
~1月11日
1.自民党政調会副会長並びに各部会長合同会議において原爆放射能医学研究所関係予算採択に決定
2.大蔵省に対し、関係有力者を通じ、協力に陳情
1月11日
~1月15日
文部省は、大蔵省当局に対し、新規追加要求予算として原爆放射能医学研究所予算四億六千六百万円を提出
1月16日
~1月17日
1.広島原爆放射能医学研究所設置に要する関係予算、大蔵省第三次査定に於いて二カ年継続事業として遂に承認を受く
2.本件に関し格段の協力を賜った自民党役員、同政調会役員、その他関係各位に対し、御礼挨拶廻りをなす。

 

目次(其の二)

昭和36年
4月3日~10月3日
1.戦傷病者戦没者遺族等援護法中、学徒、女子挺身隊、義勇隊等の時限法改正に関し、運動の基本的打合せ、陳情書の作成、国会に対する請願書の提出並びに同請願の衆議院社会労働委員会において採択に至るまでの陳情
2.、原爆医療法中二軒の制限拡大に関し、運動の基本的打合せ、拡大の必要性を裏付ける資料の蒐集並
びに二粁制限拡大に伴う経費の昭和三十七年度厚生省要求予算に計上に至るまでの陳情
3.昭和三十六年度原爆医療法一般疾病医療費予算の不足に伴う予備費補充に関する陳情
4.原爆放射能医学研究所にかかる昭和三十七年度予算要求に関する陳情
10月4日~11月16日 1.原爆医療法中二粁の制限拡大にかかる経費について、昭和三十七年度厚生省要求予算に計上決定に伴い、関係各方面に対し、これが予算獲得に関する基礎的陳情運動
11月28日~12月11日 1.原爆問題陳情運動の一元化、漸くにして決定
2.二粁制限拡大の必要性を裏付ける資料蒐集、漸く完成し、陳情書作成
12月12日~12月16日 1.原爆医療法中二粁の制限拡大の必要性について、関係各方面、主として自民党政調会、社会部会並びに大蔵省に対し、陳情書を提出の上、強力に陳情
2.二粁制限拡大の案件、自民党政調会社会部会を満場一致をもって通過
3.原爆放射能医学研究所にかかる昭和三十七年度事業並びに長崎支所設置の明年度予算獲得について関係方面に強力に陳情
12月17日~12月19日 1.二粁の制限拡大に関し、自民党政調会役員並びに大蔵省当局に対し、関係有力者を通じ、強力に陳情
12月20日~12月21日 1.明年度予算にかかる大蔵省第一次査定の結果、二粁制限拡大に要する予算全額ゼロ査定を受く
12月22日~12月23日 1.二粁軒制限拡大関係要求予算、大蔵省第一次査定に於いて全額不承認の結果に基き、これが復活要求について自民党政調会役員並びに大蔵省当局に対し、引続き強力に陳情
2.広島原爆放射能医学研究所残事業にかかる要求予算、大蔵省第一次査定において不承認の結果に基き、自民党政調会関係役員にこれが復活要求について陳情
12月24日
昭和37年
~1月5日
1.二粁制限拡大関係要求予算、大蔵省第二次査定において三粁に拡大することとする基本線に基き、遂に承認を受く。
2.、戦傷病者戦没者遺族等援護法中学徒、女子挺身隊、義勇隊等の時限法改正に関する予算、厚生大臣、大蔵大臣の大臣接渉において、昭和三十八年度予算に計上することに確約を得る。
2.本件に関し、格段の協力を願った自民党役員、同政調会役員その他関係各位に対し、御礼の挨拶廻りをなす。

 

原子爆弾被爆者の医療等に関する法律改正の制定経過 昭和35年8月1日

原子爆弾被爆者の医療等に関する法律改正の制定経過

昭和35年8月1日 [広島市]保健局長

1.改正医療法制定経緯

昭和
月日
34
[1959]
0904 幹部会同意
0907 厚生委員会採択
0914 全員協議会了解(資料再検討)
1207 自民党政務調査会社会部会において政府提案とすることに決定
1226 現行法予算 143,462,000 内示
35
[1960]
0106 改正法予算  43,637,000 内示
0112 改正法予算  56,064,000 内示
0301 自民党政策審議会、総務会通過
0302 閣議了解
0303 国会提出
0308 衆議院社会労働委員会付託
0705 医療審議会了解
0712 衆議院社会労働委員会 可決。 参議院社会労働委員会 予備審査終了
0715 衆参両議院可決
0720 改正法成立感謝会(尾崎会館)
0728 次官会議にて政令決定
0801 公布

2.とくに問題となった事項の経緯

一、政府提案

当初国としては憲法の平等の原則に反するし、学問的、理論的でなく立法技術上困難があり、事務的には措置しがたいので政治的に議員立法として提案されるよう強く要望していたが、議員立法では予算措置が困難であるから灘尾先生がとくに政府提案を強く主張され、遂に政府も同意せざるをえなかった。

二、予算措置

政府提案決定後審議の時間が十分なかったので、法は抽象的に表現することとし、全て政令、省令に委ね、予算措置をとることとなった。

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広島県議会意見書 原水爆実験禁止についての要望

広島県議会意見書

原水爆実験禁止についての要望

1960年2月29日

原水爆実験禁止についての要望

理由

昭和二十年八月六日わが広島に原爆が投下されて、本年は十五年を迎えんとしているのである。われわれは、この原爆を身をもって経験したるが故に今日まで、あらゆる機会にまたあらゆる方法をもって幾度か、原爆の惨禍とその脅威をさけび、人類恒久の平和を希求する世界の諸国に、原水爆実験禁止を訴えてきたのである。

今や原水爆実験禁止は世界の常識となっているに拘らずフランスにおいては、世界の世論を無視して、去る十三日サハラサバクにおいて核実験を強行したことは、まことに遺憾のきわみである。

よって政府においては、原水爆実験の即時無条件禁止を、国連、あるいは、核実験停止会議に申し入れるとともに、原水爆保有国に実験禁止を要請する等格段の努力を要望するものである。

広島県議会意見書 原爆犠牲者の大慰霊祭執行についての要望

広島県議会意見書

原爆犠牲者の大慰霊祭執行についての要望

1959年12月15日

原爆犠牲者の大慰霊祭執行についての要望

理由

昭和二十年八月六日広島市に原子爆弾が投下されて以来十周年にあたる明、昭和三十五年を期し、広島県主催により原爆犠牲者の大慰霊察を厳粛盛大に執行せられたい。

ついては左記によりただちに準備に着手せられたい。

一 全国の原爆犠牲者の遺族、被爆者の参列を案内すること。
一 政府当局をはじめ各界の方々の参列を求めること。
一 意義あらしめるよう最も適当な日時及び場所を選定すること。
一 計画及ぴ実施については準備委員会(仮称)を設置する等万全を期すること。

右要望する。

原子爆弾被爆者の医療等に関する法律の一部を改正する法律案(大原亨君外13名提出)の提案理由説明

原子爆弾被爆者の医療等に関する法律の一部を改正する法律案(大原亨君外13名提出)の提案理由説明

衆議院社会労働委員会、1959年11月28日

○大原議員

私は日本社会党を代表して、わが党の提案いたしました原子爆弾被爆者の医療等に関する法律の一部を改正する法律案(原子爆弾被爆者等援護法案)に関しまして、提案の趣旨及び内容のおもな点を御説明申し上げます。

わが党は今日まで、原爆被害者救援の問題は生きながらにして死の恐怖に直面する原爆被害者を守る運動であり、原水爆禁止の運動は実験検による被害を含んで、将来一人の原水爆被害者も作らないという運動であって、この二つは表裏一体であるとの考え方より一貫して努力して参りました。

すなわち原水爆禁止に対する固い決意を前提としてのみ被害者救援の運動が成果をあげ得るものであり、被害者救援の決意なくして原水爆禁止運動の結実はあり得ないと考えるものてございます。一部の人々が運動発展の歴史を無視いたしましてこの二つの運動を切り離して考え、原水爆禁止の運動を非難するがごときは、その意識するとしないとにかかわらず原爆の被害を過小に評価することによって戦争の準備を正当化せんとする、誤った考え方に起因するものといわねばなりません。特に広島、長崎のあの惨劇の後十四年間、歴代の保守党内閣がこの恐るべき原爆症の科学的、社会的実相を国の責任において明りかにする努力を怠っていたことは人道的にも非難されなくてはなりません。

わが日本社会党は、昭和三十二年のいわゆる被害者医療法を抜本的にこの際改正して総合的な援護立法を制定することを主張する理由として次の四つの点をあげたいと存じます。

その第一は、原爆の投下は国際法規に違反する、非戦闘員をも対象とする大量無差別の殺戮行為であるという点であります。日本の加盟する一九○七年締結のハーグ陸戦法規の第二十二条は「交戦者は外敵手段の選択につき無制限の権利を有するものに非ず」と規定し、同第二十三条A項では「毒又は毒を施したる兵器を使用すること」及び同条E項においては「不必要な苦痛を与うべき兵器、投射物その他の物資を使用すること」を禁止しているのであリます。そればかりではありません。一八六三年のセント・ペテルスブルグ宣言は、戦争の必要が人道の要求に一歩を譲るべき技術上の限界を決定している赤十字条約にも違反しており、空戦における軍事目標主義(空戦法規第二十四条)に反し、さらに一九二五年五月のジュネーブ議定書及び一九四八年の集団殺害防止処罰条約の精神に違反するものであることは明白であります。

日本がサンフランシスコ条約において締約国との間における一切の賠償請求権を放棄したとはいえ、被害を受けた国民の要求権を無視したものではなく、少なくとも講和条約締結の日本国政府が被害者に対する義務を負担するものであって、賠償が戦勝国のみに保障されるものであっては、人道を名にする国際法は無意味といわなければなりません。このことにつきましては、以上二つの点にわたりまして、去る十一月十九日の社会労働委員会におきまして、藤山外務大臣を招いて質問した際も、藤山外務大臣は私のその主張に対しまして、同意を表明いたしたのであります。要するに、原爆被爆者の損害に対して国は責任を負うものであることは明らかであります。

第二の理由は、原爆による傷害作用はいかなる凶器や毒ガス、細菌などよりも致命的被害を与えるものであり、特に被爆後の十四年の今日も放射能の影響によって死亡するものもあり、遺伝的影響をも与えることが実証されているのであります。わが国の放射能医学の第一線の権威である日赤の都築博士は「人体の細胞の中の核に放射線が作用するということが明らかになった。核の中の染色体だけに作用するという障害因子は細菌や毒薬にはなく放射能だけだ」と述ぺているのてあります。

第三に、いわゆる医療法は原爆症の特殊性を認めた立法でありますけれども、この医療法は実施三年にしてその法的な欠陥が明らかとなり、医療の目的を達するためには国の責任による生活保障が不可欠となったのであります。

第四に、社会立法との均衡上の問題でございますが、今日公務員すなわち軍人軍属に国家保障を限るということは、当時国家総動員法などから見て不当であるばかりでなく、戦犯や引揚者に対する恩給や一部保障軍がなされていることからも被爆者の家族及び遺族に対する援護は当然といわねぱなりません。

以上の理由によりまして、わが党は次の項目を骨子とする原爆被爆者援護のための法律改正を提出いたす次第でございます。

第一に、現行医療法の治療認定基準を拡大し、被爆者の負傷または疾病が原子爆弾の傷害作用に関連しているもののすぺてを対象とすることにいたしました。

第二に、医療給付を受ける被爆者に対して援護手当を支給することにいたしました。この際援護手当は栄養補給など医療中の被爆者の家族の生活援護であって、いわゆるボーダー・ライン層を含んだわけであります。

第三に、医療を受けるため労働することができず、このため収入が減じたと認めるものに対しまして、援護手当とは別個に医療手当を支給することにいたしました。

第四に、健康診断または医療給付を受ける被爆者に交通手当を支給することにいたしました。

第五に、被爆死亡者の遺族には三年に限り、一人年額一万五千円の給与金を支給することにいたしました。ただし戦傷病者戦没者遺族等援護法の規定による年金、給与金を受けるものを除外いたしました。

第六に、被爆死亡者の遺族に、一人につき十年以内に償還すべき記名国債で三万円の弔慰金を支給することといたしました。

第七に、厚生大臣の諮問機関として被爆者援護に関する重要事項の調査審議のため原爆被爆者等援護審議会を置き、この審議会には被爆者及び死亡者の遺族代表も加えることにいたしました。

第八に、原爆の影響を総合的に調査、研究、及び治療をし、原爆症患者の医療と福祉向上のため原子爆弾影響研究所を設立し、付属病院を併置することにいたしました。

以上が国際法規の精神を中心として、国が全責任を持って放射能の影響と治療の根本的研究、その上に立つ完全なる医療給付と生活援護についての方針を骨子とする援護法の内容でございます。

言うまでもなく、日本はただ一つの被害国であります。世界ただ一つの被害国が原爆被害の実相を究明し、再びこのあやまちを繰り返さないために、この決意をこの援護法を通して表明することは、全世界の人々が原水爆、ミサイルの究極兵器の今日、原水爆禁止と完全なる軍縮を願い、国連にもこれにこたえて討議、諸決議を上げられておる。そういう現状から見て、わが日本の政府、国会の当然の責務であると存じます。すでに本委員会におきましても、渡辺厚生大臣、中曽根科学技術庁長官、藤山外務大臣等が出席いたされました際に、すべて賛意を表し、努力を約束されておるところてございまして、特に広島や長崎を中心といたしまして、被爆関係者あるいはその地域、全国的に与野党とも一致いたしましてこのことを要求をいたしておるのでございます。何とぞ慎重御審議の上、すみやかに可決あらんことをお願い申し上げまして、提案の説明を終わります。

原爆被爆者対策についての陳情並びに請願経過概要

『原爆被爆者対策についての陳情並びに請願経過概要』(広島市、[1959年9月])

1.原爆医療法制定以前

年月 陳情・請願先 陳情・請願者 内容
1953.07 国会
(衆参両院)
広島市・議会
長崎市・議会
原子爆弾による障害者に対する治療援助に関する請願
(概要)治療費の国庫負担に関すること
1954.06 厚生省 広島原対協 原爆障害者治療費国庫負担につき陳情書
(概要)健康管理と治療費に関すること
1954.06 厚生省 広島原対協 原爆症調査治療研究の総合機関に関する陳情
(概要)広島に設置されたいこと
1954.09 厚生省 広島・長崎特別都市建設
促進議員連盟会長
広島・長崎両県選出国会議員
原爆障害者治療費の国庫支出に関する陳情書
(概要)3カ年計画
①原爆障害者治療費 301,500,000円
②治療に伴う生活援護費 24,300,000円
計 325,800,000円
1955.09 厚生省 広島市・議会
広島原対協
原爆障害者治療費等増額に関する陳情書
(概要)3カ年計画
①原爆障害者治療費 207,000,000円
②治療に伴う生活援護費 18,000,000円
③被爆者検査費 18,000,000円
計 243,000,000円
1956.11 厚生省 広島市・議会
長崎市・議会
原爆障害者援護法制定に関する陳情書
(法案要綱)
①医療及び健康管理を行うこと
②医療手当を支給すること
③原爆障害に関する調査研究機関の設置

 

2.原爆医療法制定以後

年月 陳情・請願先 陳情・請願者 内容
1958.08 厚生省 広島市・議会 1.原爆被爆者の健康管理及び医療を促進するための対策に関する陳情書
(概要)
①健康診断車の設置
②栄養物の補給
③医療範囲の拡大と認定手続の簡素化
④現地に原爆医療研究機関の設置
2.被爆者援護対策の確立に関する陳情書
(概要)
①医療中における生活保障の確立
②医療交通費の支給
③寝具の備付
④身体障害者の装具の支給
⑤被爆者福祉センターの設立
3.原爆白書の作成に関する陳情書
国家において原爆白書の作成
1958.09 郵政省
厚生省
広島県・議会
広島市・議会
広島原対協
寄付金つき郵便葉書等の発売に係る寄付金の配分方に関する陳情書

1.生活援護 11,200,000円
①生活援護費
②特別医療費
③身体障害者に対する補装具費
④医療交通費
⑤寝具購入費
5,760,000円
720,000円
220,000円
2,700,000円
1,800,000円
2.健康診断車(艇)の設置 8,800,000円
3.原爆福祉センターの建設 48,000,000円
4.原爆医療の総合的研究調査 10,000,000円
78,000,000円

「注記」福祉センターについては、本申請において約1億円の規模とした。