宇吹ヤスの短歌(抄)
| 年月日 | |||
| 1971 | |||
| 0310 | 『火幻 1971春号』p.38 | ||
| 疎まるる眸<ひとみ>に馴れし淡き姿〈かげ〉菊香やさしき座に固くおり | |||
| 白髪に杖曳く姿を写しいるわが店の鏡をひたに拭いぬ | |||
| あえなくも消ゆる淡雪日陰にて固くよろえる残雪もあり | |||
| 子に生きし母もかくやとふし高きわが手見つむも透ける湯槽に | |||
| 欲しきものボーナスでという吾子の笑顔百合の蕾の大きくふくらむ | |||
| 水欲りて逝くきし人らの霊魂〈みたま〉ともなめずる仕草冬風〈かぜ〉に揺るる灯(平和の灯) | |||
| シルクロードの幻想曲余韻に浸りつつ出ずる歩道をかけゆく落葉 | |||
| 0720 | 『火幻 1971夏号 ヒロシマ平和特集』pp.29-30 | ||
| 舅病む | |||
| 何時の日かあるべし老残わが姿〈かげ〉を怯〈お〉じつつぬぐいゆく舅の漏尿 | |||
| ぬれ光る屋根にひと日を托す老父〈ちち〉の重き瞼<まぶた>にも夢宿るらし | |||
| 病む舅の土になじまぬ掌は白し曲りし指の爪臥床に切る | |||
| 土に生くる夢なお持つか春まきの種を病み床〈ど〉に舅はまさぐる | |||
| 限られし病み床〈やみど〉の視野に今し入る機影をしずかに追い給う舅 | |||
| とめどなく涙溢るる伯母の訃か波ひたひたとふなべりあらう | |||
| 開く口のリズムにも馴れ一滴の汁だにこぼさぬ舅との日課 | |||
| 限られし病み床の視野を薫風に向き違えつつ回る矢車 |
止



